| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB1-141 (Poster presentation)
環境DNA分析は、生物体から水中に溶け出たDNA断片を検知し生物種を特定する方法であり、曵網や目視などの従来の調査手法と比較して、時間的・労力的に低コストで生物相を把握することができる。魚類を初めとする水生生物のモニタリングにおいて、環境DNA分析は目視で確認できない希少種も検出できるなどの可能性を秘めており、生物量と環境DNA量の関係が分かると詳細な分布調査にも応用できる。
本研究では、日本各地で、刺胞毒による被害が数多く報告されているアカクラゲ(Chrysaora pacifica)を対象とし、広域調査と季節性調査によって環境DNA量とバイオマスの関係を検討した。
京都府の舞鶴湾で実施した広域調査では、船上から目視で計測したアカクラゲの個体数と表層水中の環境DNA量の間には有意な相関があった。海域における環境DNAは潮汐や潮流などの影響で陸水域と比べて分布に濃淡が少ないことも予想されたが、湾内で明らかにDNA量の濃淡が観察された。さらに、目視でアカクラゲが観察できない地点でも環境DNAが検出されたため、環境DNA分析では目視より多くの情報を得ることができるといえる。一方、舞鶴湾の桟橋での9か月にわたる季節性調査では、環境DNA量の動態は目視の結果とよく一致し、アカクラゲの目視数が盛期となる初夏に、環境DNA量のピークが見られた。
以上の結果から、海域においても環境DNA分析による生物分布の定量的な調査が可能であると考えられる。今後は環境DNAの野外での検出限界や定量限界、拡散範囲を明らかにすることで、環境DNAを用いた野外での分布調査精度の向上が期待できる。