| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB1-144 (Poster presentation)

深泥池における湿原植生の変化に及ぼすニホンジカと環境要因の影響

*鄭 呂尚,松井 淳,辻野 亮(奈良教育大学)

深泥池(京都市北区)には、貧栄養な水質の池に高層湿原的なミズゴケ泥炭地が浮島として成立しており、貴重な水生植物群落が発達している。植生の変化と現状を把握するため、浮島湿原全域に総延長1,600 m、幅1 mのベルトトランセクトを設けて出現植物と採食の有無を記録し、2006 年に行われた同調査と比較した。2006 年から2013 年にかけて種数に大きな変化は見られなかったが、シカによる採食品目数、植物種の被食率は著しく増加した。また、多くの小型の草本種の出現率が大きく増加した一方、大型の植物であるヨシ、マコモ、ススキ、セイタカヨシや、2006 年に優占種であったミツガシワやカキツバタ、サワギキョウなどの出現率が顕著に減少した。出現率が増加した種に関しては被食率が低く、出現率が減少した種に関しては被食率が高かったことから、シカが出現率の増減に大きな影響を与えたと考えられた。さらに、草本種は2006 年から2013 年にかけて開水域からの距離が近い浮島外縁部と浮島南部で種数が増加する傾向にあった。浮島外縁部と浮島南部は地盤が不安定であるためシカがアクセスしにくいことが原因ではないかと考えられる。優占種が大型の草本種から、シカが採食しない小型の草本に変化しており、今後もシカ対策を行わない限りこのような変化は続くと考えられる。今後、深泥池湿原の貴重な植生を保全するためには、防鹿柵を設置するなどの対策が緊急に必要である。


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