| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB1-146 (Poster presentation)

水田雑草の保全に刈り取り除去は有効か-中池見湿地における事例-

*野一色麻人, 浜端悦治(滋賀県大・環境科学研究科)

福井県の中池見湿地は,江戸時代から水田として利用されてきた低層湿原で,近年まで昔ながらの水田環境が維持されてきた.このため当地では,いわゆる水田雑草と呼ばれる仲間の希少植物種が数多く確認されている.しかし近年,耕作放棄水田が増加し,ヨシなどの大型湿生草本が優占する植生へ遷移することで,多くの希少植物種が姿を消しつつある.有効な保全策として,復田など耕起を伴う植生管理が考えられるが,それには多大な労力が必要である.今回,耕起よりも労力が少ない刈り取り除去法による希少植物種の保全・復元の効果を管理実験によって検証した.

希少植物種の群落が衰退した耕作放棄水田に,春・夏刈り取り(SS)区,春刈り取り(S)区,対照(C)区の3つの処理区を設けて,実験区内で植生調査および相対光量子密度の測定を行なった.その結果,刈り取り2年目のSS区にて,実験区内で最も優占していたヨシなどの大型湿生草本の乗算優占度(MD)が他の処理区よりも小さい傾向が見られた.また相対光量子密度についても,同年10月のSS区において他の処理区よりも高い値を示した.以上のことから,春と夏の二回の刈り取り除去によって大型湿生草本の現存量が低下し,大型湿生草本による被陰効果が小さくなったことで夏期と秋期の光環境が改善されたと考えた.全処理区で確認された希少植物種のミズトラノオは,刈り取り2年目のSS区において,他の処理区よりもMDが大きくなる傾向が見られた.これは,刈り取りによる光環境の改善によって資源競争が緩和され,群落の拡大に成功したと考える.他にも,耕作放棄後確認されていなかった希少植物種を刈り取り区で確認した.以上のことから,耕作放棄水田における希少植物種の保全に刈り取り除去はある程度有効であることが示唆された.


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