| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-038 (Poster presentation)

耕作放棄地のクモ相 -植生遷移との関係-

馬場友希,楠本良延,田中幸一(農環研)

農業従事者の減少や高齢化等に伴う耕作放棄は、農地の生物多様性の新たな脅威として注目されている。特に伝統的農業・管理によって維持されてきた日本の里山において、その影響は大きいと考えられる。この影響を明らかにするため、食物網において中間的な栄養段階に属し、環境指標性が高いクモ類に対する耕作放棄の影響を調べた。耕作放棄地は放棄年数や土壌条件によって植生等の環境が著しく異なり、クモ類の個体数や多様性に影響を及ぼすと考えられる。そこで局所環境として植生遷移段階と土壌水分条件に注目した。

茨城県つくば市周辺において、これらの局所環境が異なる耕作放棄田(36カ所)を調査地として、捕虫網を用いた掬い取りによりクモ類を調査した。植生遷移(初期・中期・後期)と土壌水分条件(乾燥・湿性)を説明変数とする一般化線形モデルを用いて、クモ類のデータを生態特性が異なる円網性・徘徊性クモに分け、個体数や種多様性に与える影響を評価した。

解析の結果、円網性・徘徊性のクモ間では局所環境に対する応答が異なった。個体数については、両者とも遷移後期において個体数が少なくなるが、遷移中期での反応が異なった。すなわち、円網性クモ類では、イネ科草本が優占する遷移初期から、セイタカアワダチソウが優占する遷移中期にかけて個体数が減少するのに対して、徘徊性クモ類では、遷移中期においても遷移初期と同等に個体数が多かった。一方、土壌水分条件は円網性クモのみに影響し、湿地植生の放棄地において個体数が多かった。これらの結果は、耕作放棄地に生息するクモ類の構成が植生遷移や土壌水分条件によって大きく異なることを示唆する。種数や種多様度(Simpson’s index)については、円網性クモでは各要因の影響は見られなかったが、徘徊性クモでは種多様度が湿地植生の放棄地で高い傾向が示された。詳細なプロセスを検討するため種組成の違いも解析したので、その結果についても触れる。


日本生態学会