| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB2-046 (Poster presentation)
沿岸域生態系は、乱獲や汚染、開発といった人間活動の影響を受けやすい生態系の一つであり、適切な保全管理策を策定するためには、食物網構造の正確な把握が不可欠である。沿岸域に生息する魚類には、生活史に応じて広域を移動・回遊する魚種も多いため、それらの空間スケールも考慮することが、食物網動態を明らかにする上で重要な課題となる。
本研究では、仙台湾に生息するヒラメおよびイシガレイを材料とした。これらの魚種は、孵化・着底後、水深の浅い沿岸域(浅場)で稚魚期から幼魚期を過ごし、成長に伴って水深の深い沖合へと移動する。しかし、浅場においても大型の成魚が採集されることがある。湾内の多地点において季節ごとに採集を行い、魚の栄養段階を推定した。栄養段階の推定には、生物組織に含まれる個々のアミノ酸の窒素安定同位体比を利用した。この推定手法では、魚の体組織に含まれるグルタミン酸とフェニルアラニンの窒素同位体比の差を計算することによって、一次生産者の値が不明であっても絶対的な栄養段階を示すことができる。各個体の値を比較することで、成長に伴う栄養段階の変化、および環境条件の異なる地点間で見られたパターンの違いを示すことを目的とした。
解析の結果、稚魚から成魚にかけて栄養段階が上昇する過程が明らかになった。また、同等の大型個体であっても、浅場と沖合で採集された個体では栄養段階が異なっていたことから、大型個体の中にも長期にわたり浅場に留まっている個体がいる可能性が示唆された。沖合においても、地点間や季節間で栄養段階の差が見られ、餌生物が変化することが示唆された。さらに、こうした栄養段階の差を応用することで、アミノ酸同位体情報を用いた個体の移動追跡の可能性についても検討を行った。