| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB2-057 (Poster presentation)
国際河川メコン川では、世界最大の内水面漁業が流域にすむ人々の食と生計を支えている。この河川流域で進行するダム開発は、漁業に甚大な影響を及ぼすとされるが、一方で新たに生み出される広大なダム貯水池での養殖魚による漁業生産は、失われる野生魚の生産を代償するという考えもある。そこでメコン流域の6つの貯水池と3つの自然湖から食性の異なる数多くの淡水魚種を採取し、筋肉組織の炭素窒素安定同位体比(δ13C, δ15N)を測定し、貯水池-自然湖間で食物網を比較した。その結果、貯水池では魚の筋肉のδ13Cが常に植物プランクトンを主体とする粒状有機物(POM)のδ13Cより大きな値をとったのに対し、自然湖では両者間に有意な違いは認められなかった。一方、δ15Nに着目すると、貯水池では各魚種の食性から推定したδ15Nが、その魚の筋肉のδ15Nとよく一致し、両者間に有意な正の相関がみられた。しかし自然湖では両者の相関は全般に弱く、特に雨季のサンプルからは有意な関係は認められなかった。
以上から推測できることは、貯水池ではそこに生息する魚類群集の餌の起源の1つに植物プランクトンがあり、それよりδ13Cの低い炭素源が魚類に利用されていないこと。一方、自然湖では植物プランクトンよりδ13Cの低い炭素源(恐らく陸上高等植物の葉など)が魚類に餌として利用されており、同時にこれら複数の炭素源のδ15Nが異なる。乾季から雨季に水位が上昇すると、魚類の行動範囲は拡大し、彼らの餌の炭素源に陸上高等植物などが加わる。つまり貯水池の生態系は、藻類により生産された自生性の有機物に依存するが、自然湖沼では有機物起源が多く、他生性の有機物も魚類に利用されている。魚類生産メカニズムの異なる貯水池と湖沼の生態系サービスを単純に比較はできない。