| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB2-064 (Poster presentation)
なぜ、多くの動物の雌で複数回交尾が見られるのかは、進化生物学における謎のひとつである。マメゾウムシ類の寄生バチであるゾウムシコガネコバチは、交尾後に雌の拒否が成立した以降は複数回交尾をまったく行わないと考えられてきたが、一部の雌が複数回交尾を行う場合も確認されている(前川 私信; 笠松 私信)。さらに我々の予備実験によると、実験に使う雌を作成したサブカルチャーの違いや雌の羽化後の環境によって、複数回交尾が起こることが示唆されている。そこで、雌の羽化前および羽化後のどのような要因により雌の複数回交尾が誘発されるのかを明らかにすることを目的に実験を行った。
産卵するマメゾウムシとそこに寄生するゾウムシコガネコバチの数を調節してサブカルチャーを作成し、そこから羽化したハチの個体数と性比を記録後、その一部のハチを実験に用いた。雌には羽化後 (1) 24時間以内、(2) 2日間単独で保存した後、もしくは、(3) 2日間他の雌と一緒に保存した後に、異なる2頭の雄を順番に与え、それぞれの雄との交尾の有無を確認した。その結果、1頭目の雄とはほとんどの雌が交尾したが、2頭目の雄とは一部の雌のみが交尾した。雌が羽化したサブカルチャーの羽化個体数、性比、羽化後の処理区の違いを説明変数にして一般化線形モデルで解析したところ、性比の影響は確認されなかったが、羽化個体数が少ないほど雌は複数回交尾を行いやすく、羽化後に他の雌と一緒に保存された処理区は他の区に比べ複数回交尾率が高いことがわかった。寄生バチなどで想定される集団内の雄が少ない状況では、雌が精子数を確保するために複数回交尾することがゲームモデルで予測されており(Abe & Kamimura 2015)、このことと絡めて本種の雌が複数回交尾を行う条件を考察する。