| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB2-065 (Poster presentation)
現在、国内で最も一般的に見られるナメクジは侵略的な移入種であるチャコウラナメクジである。チャコウラナメクジが属する有肺目の生物は雌雄同体であり、本種を含めた一部の種が自殖(自家受精での繁殖)が可能である。一般的に、侵略的になる外来生物は在来種と異なる繁殖形質(特に高い成長速度や増殖率)を持つ。自殖には近交弱勢のリスクがあると考えられるが、本種は自殖でも他殖(他家受精による繁殖)に比べ遜色なく繁殖できることが予測される。この可能性を検証するため、性成熟前に採集したチャコウラナメクジをペア、もしくは単独で飼育観察し、自殖と他殖による繁殖状況(産卵数、産卵回数、卵の体積、孵化率)や子の成長速度の比較を行った。飼育は性成熟を促進するような日長と温度 (13L:11D,18℃)で行い、ハムスターフードを餌として与えた。
飼育実験の結果、自殖個体は他殖個体に比べ有意に多くの卵を生んだ(GLMM, Wald 検定:p<0.05)が、産んだ卵には胚の発生がみられない未受精卵が含まれ、孵化率は他殖個体に比べ有意に低かった(GLMM, Wald 検定:p<0.05)。一方、孵化後の子の成長速度は自殖で生まれた個体の方が他殖に比べて有意に大きかった(GLMM, Wald検定:p<0.05)。
本種は自殖でも他殖と遜色なく繁殖可能であり、少ない個体数からでも増殖できるため、侵略的な移入種となることが可能であったと考えられる。自殖個体で卵の孵化率が低下していることは、不完全な自家不和合性を反映していると思われる。本種で期待される自殖率の高さと局所集団の遺伝的均一性を考えると、自殖個体の子の成長速度の高さは、自殖可能なサカマキガイ等で知られる外交弱勢の影響である可能性がある。