| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-075 (Poster presentation)

エゾヤチネズミ個体群の遺伝的空間構造の年次変化―個体数変動パターンが異なる2個体群間の比較―

*山田敏也,杉木学,銭谷純平,秋元佐紀(北大・環境科学院),石橋靖幸(森林総研),齊藤隆(北大・FSC)

生態学的な時間及び空間スケールにおいて、個体群の遺伝的空間構造は、個体の移動分散によってもたらされる遺伝子流動と、有効集団サイズにその強さが依存する遺伝的浮動によって形成される。したがって、遺伝的空間構造の経時変化を見ることによって、遺伝的空間構造をもたらす生態学的なプロセスが解明できると期待される。しかし、先行研究のほとんどが一時の遺伝的空間構造を調べた研究であるため、遺伝的空間構造がどのような生態学的プロセスによって形成されるかはほとんどわかっていない。様々な生態学的プロセスの中でも、個体群密度の変化は有効集団サイズと移動分散行動に影響を与えるため、個体群動態は遺伝的空間構造に大きな影響を与えていると考えられる。そこで本研究では、個体群動態の遺伝的空間構造への影響を明らかにするために、北海道のエゾヤチネズミを対象に、非周期的で小さな個体数変動をする石狩個体群と、周期的かつ大きな個体数変動をする根室個体群において、連続した3年間での遺伝的空間構造の変化を調べた。石狩個体群では、遺伝的空間構造に大きな年次変化は観察されなかった(FST: 0.112-0.145; 総ハプロタイプ数: 12-18)。根室個体群も2年間のみの結果ではあるが、大きな年次変化が観察されなかった(FST: 0.094-0.132; 総ハプロタイプ数: 31-37)。遺伝的分化程度は両個体群で同程度であった一方、遺伝的多様性は根室個体群のほうが高かった。発表では、今回観察された遺伝的空間構造のパターンが、遺伝的浮動と遺伝子流動がどのように変化することで起こるのかをシミュレーションし、両個体群における遺伝的空間構造の安定性と、根室個体群における高い遺伝的多様性がどのようなプロセスを経て起こるのかを考察する。


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