| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB2-076 (Poster presentation)
サキグロタマツメタは日本では一部の地域でしか記録がない希少種であったが、1990年前後から太平洋岸各地で発見され始めた。これらは大陸からの輸入アサリとともに日本に侵入した集団と考えられ、アサリへの食害が漁業に対する深刻な問題となっている。現在では多くの地域に分布し定着しているが、本種についてはまだ研究が少なくアサリの流通経路も複雑であるため、どのように拡散したのか詳細は不明である。そこで本研究では移入元となった原産地の推定や定着後の移動などについて探るため、移入集団とされる東北地方各地のサキグロタマツメタで遺伝子解析を行った。松川浦(福島)、松島湾(宮城)、山田湾(岩手)で採集したサキグロタマツメタのミトコンドリアCOI遺伝子型を解析したところ、福島、宮城の集団は個体数の多い共通した1遺伝子型を含む様々な遺伝子型で構成されていた。これらの集団は韓国に存在する遺伝子型と同一または近いものを含んでいたことから朝鮮半島の集団に由来する可能性が高く、直接的及び間接的な流通経路を有していたと思われる。一方、岩手の集団は福島や宮城と全く異なる遺伝子型で集団が構成されており、福島や宮城とは異なる流通経路で移入したと考えられる。これら各地域の遺伝子型構成の違いは原産地の違いをほぼ反映し、移入後の集団間の交流はごく近隣を除き少ないと考えられる。近年の分布拡散は自然的な拡散よりは人為的な移動が大きく寄与したと推測される。