| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-084 (Poster presentation)

微量元素を用いたヒゲナガカワトビケラの生息地環境評価と個体群の動的構造解明

*工藤誠也(岩手大・連農), 井上博元(岩手大・連農), 野田香織(弘前大・理工), 渡邉泉(東京農工大・農), 東信行(岩手大・連農)

ヒゲナガカワトビケラ Stenopsyche marmorata は,河川の上~中流域に生息する造網性トビケラである.幼虫は河床の石陰に網状の巣をつくり,その巣で濾し取ったPOM(流下有機物)を摂食するが,その生態ゆえに幼虫の定住性は極めて高く,本種の体内元素は発生地点の環境を反映するものと考えられた.青森県岩木川流域で得られたヒゲナガカワトビケラの体内微量元素をICP-MSを用いて測定し,生息地の環境評価を行うとともに,同一河川内での発生地点の判別および個体の移動分散評価を試みた.

その結果,本種の体内元素濃度は,各地点における河川水の溶存態元素濃度と密接に関わっていることが分かった.また,終齢幼虫の体内元素濃度は地点毎に異なっており,調査地域内に設置させている大ダムである目屋ダムの存在がその変化に大きな影響を与えているものと考えられた.一方,成虫では,ダム湖より上流側で得られたものと下流側で得られたものが明確に区別されたことを除いて,元素濃度に地点差は見られなかった.この結果は,ヒゲナガカワトビケラの成虫が特定の調査地点間を上下流方向関わらず頻繁に移動していること,また,ダム湖によって移動分散が妨げられ上流域に生息する集団が孤立状態にあることを示唆するものであった.


日本生態学会