| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-107 (Poster presentation)

行動量を指標としたアザラシにおける潜水エネルギー消費量の推定

*鈴木一平,佐藤克文(東大・大海研)

野生動物における代謝速度の測定は、彼らの採餌戦略を理解する上で、餌生物の獲得量と並んで重要な要素となる。狩りに出掛けた動物の代謝速度を測定する手法として、既知の安定同位体比の水を血管中に投与し、その希釈率からエネルギー消費量を定量化する手法(二重標識水法:DLW法)が知られている。しかし、測定のためには再捕獲による採血が必要となり、再捕獲が困難な水棲動物においてはあまり現実的ではない。水面が板状の氷で覆われる南極海に生息するウェッデルアザラシでは、呼吸する穴をドームで覆い、潜水の前後における呼気から代謝速度を見積もる手法もあるが、他の種に適応できる手法ではない。本研究では、動物搭載型記録計によって得られる遊泳速度から、鰭脚類3種(野外2種、飼育1種)を対象に潜水エネルギー消費量を推定し、DLW法と呼気計測法による報告値との比較によって本手法の妥当性を検討した。

授乳期間中の雌のニュージーランドオットセイ(28.8-47.4 kg、N=5)とミナミアメリカオットセイ(37.2-47.8 kg、N=2)、および飼育下のタテゴトアザラシ(30 kg)に記録計を取付け、採餌旅行期間の代謝速度と1回の潜水におけるエネルギー消費量を時系列データ(潜水深度、体軸角度、遊泳速度)から推定した。代謝および行動由来のエネルギー消費量の2つに分けて定量化した結果、オットセイ2種から得られた計12回の旅行期間の代謝速度は6.4±0.4[J/sec/kg]となった。また、鰭脚類3種の潜水エネルギー消費量は、潜水深度と正の相関を示した。これらの結果は、DLW法および呼気計測法による報告値と同等の値であったことから、行動量を用いた潜水動物における代謝速度の推定は、従来の生理学的手法と同程度の値を示す妥当な手法と考える。


日本生態学会