| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB2-111 (Poster presentation)
多産の動物は概して、産子数を増やす一方、育児に対する投資を少なくすることで、できるだけ多くの子孫を残す戦略を取る。しかし、多産動物が群れを作る場合、構成個体が増えることで、群れの動きの制御は難しくなる。そこで、本研究では、多産動物の群れにおいて、群れの動きがいかにして制御されているかを明らかにした。マダガスカルに生息するコモンテンレック(Tenrec ecaudatus )は、世界一多産な哺乳類であり、1シーズンに一腹で30匹弱の子どもを産む。育児期には母親が、30匹の子どもを連れた群れを作り動き回る。群れは特徴な動きを見せ、捕食者が接近すると群れの構成員が一斉に停止する。コモンテンレックは目が悪いにも関わらず、各個体の停止が時間差なく起こるために、何らかの音を手がかりにこの一斉停止が起こることが予想される。しかし、コモンテンレックは警戒声などの音声を持たないため、群れの動態を制御する手がかりは不明であった。そこで、本研究では、コモンテンレックの育児期における群れの動態を制御するシグナルを明らかにすることを目的とした。実験では、野生下で捕獲したコモンテンレックの群れを、飼育ケージ内に放し、音声の録音とともにビデオ撮影を行った。その結果、構成員の一斉停止の際に構成員から発せられる音として、母親の鼻息の音と構成員の停止する足音が録音された。そこでさらに、母親の鼻息と構成員の停止する足音を再現し、行動を観察すると、大きな足音に反応して停止することがわかった。コモンテンレックは、特別な音声を進化させることなく、環境中の音声を利用することで効率よく群れの動態を制御していることが示唆された。