| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB2-228 (Poster presentation)
生物多様性の危機が深刻化する今日、市民の生物多様性への意識や理解を向上させることが求められている。このためには、まず市民にとって身近な環境にも多くの種類の生物が生息し、種ごとに生息環境に応じた生活を営んでいることを実感できるような機会を提供することが必要である。アリは幅広い環境に生息する昆虫であり、形態だけでなく、社会構造や生活様式も非常に多様である。また、多くの人々にとって馴染み深い存在だが、その生態や多様性についてはあまり知られていない。さらに、飼育が比較的容易であり、博物館展示の素材や学校教材としての可能性を秘めている。そこで、十日町市立里山科学館キョロロにて、身近に生息するアリ類の生態や多様性をテーマとした企画展を開催し、来館者アンケートなどから展示の素材としての蟻類の有用性を検証した。
企画展では十日町市内に生息する様々なアリの巣内の様子を観察できる生体展示や、身近な緑地で採集されたアリの標本を実態顕微鏡を用いて観察できるコーナーなど、来館者が各々のペースでじっくりと身近なアリの形態や生活様式を比較できるよう工夫した。また、個体標識したコロニーを使った来館者参加型の行動観察コーナーやアリの行動や生活をテーマとした4コマ漫画コンテストなどの参加型展示を設け、様々な年代に楽しみながら観察してもらえるよう工夫した。
アンケートからは、約9割の来館者が展示を通して身近な環境や生き物に対する興味が高まったと回答していたこと、「身近な昆虫である蟻のことを全然知らないことがわかった」、「アリにも色々な生活様式があって、ひとつのパターンだけではないことがわかりました」などのように、身近な環境における生物多様性への気づきを示唆する感想が見られたことなどから、アリ類が身近な環境や生物多様性への市民の意識を向上させる有効なツールとなることが示された。