| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
企画集会 T07-1 (Lecture in Symposium/Workshop)
生物の色は,明環境において視覚の発達した動物との相互作用によって進化する.視覚で探索を行う捕食者がいる場合,餌となる動物の体色には捕食圧を減少させるような機能が備わっていると考えられる.これまで,鱗翅目などの昆虫の色彩変異は,昆虫食の鳥類によって説明されてきた.一方で,鞘翅目も多様な体色を進化させた昆虫であるが,その捕食者および体色と捕食圧の関係は明らかではない.本研究では,一般に夜行性と言われるにもかかわらず多様な体色を持つ大型の徘徊性甲虫オサムシにおいて,北海道道央に分布する森林性の6種を対象として,体色(反射スペクトル),活動時刻,捕食者をそれぞれ分光測定,採集,野外実験から明らかにした.オサムシの体色は背面にのみ現れ,色のある種では特定の波長帯で高い反射率を示し,その反射率はメスよりもオスで高くなる傾向が見られた.黒い種の背面および全ての種の腹面は,全ての光の波長に対して低い反射率を示した.また,いずれの種も昼夜ともに徘徊しており,その活動性はオスのほうが高かった.これらの結果は,オサムシの背面の体色が他の動物との視覚を介した相互作用によって進化したことを示唆する.一方,林床で活動する脊椎動物のほとんどは色覚の退化した哺乳類であった.オサムシの主要な捕食者は夜行性のタヌキであり,その捕食率は低く,オサムシの体色も影響しなかった.したがって,捕食圧はオサムシの体色の進化的要因とは考えにくい.本発表では,捕食以外の視覚的相互作用,すなわち捕食寄生や性間の相互作用による甲虫の色彩進化の可能性についても考察を行う.