| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
企画集会 T08-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
ネオニコチノイド系殺虫剤は優秀な農薬として日本のみならず、世界中で広く使用されてきた。欧米では主にトウモロコシやヒマワリなど畑用作物で使用され、東南アジアでは水田で広く使用されている。世界的にヒットした農薬であるが、その後、その地位は、環境科学における悪の代名詞へと転落することとなる。
欧米を中心にネオニコチノイドによるセイヨウミツバチに対する悪影響が次々と報告され、国内でも、アキアカネ等の水田生物の減少の原因としてネオニコチノイドが疑われるようになった。EUは、2013年に一部ネオニコチノイド系殺虫剤の使用規制に踏み切り、我が国でも、本系統剤のリスク管理のあり方が政策課題として議論されている。
ネオニコチノイド系殺虫剤の生態影響が強く懸念される要因として、本系統剤の卓越した殺虫効果に加えて、浸透移行性および残留性があげられる。すなわち、植物体に取り込まれた薬剤が、花粉や花蜜へ移行して、それをハナバチが巣に持ち帰ることで低濃度薬量による慢性毒性が発現するリスクや、土壌中に残留した農薬が長期的かつ広域的に毒性を発現するリスクが想定される。しかし、これらのリスクは、現行の農薬登録システムにおける室内毒性試験を基軸とした生態リスク評価手法では十分に評価することができない。
国立環境研究所では、模擬生態系を用いて、化学物質による生態系変化を調査し、室内ビーカーレベルでの評価では予測困難な生態系影響評価の検討を進めている。実際に、水田メソコズムや畑メソコズムによるネオニコチノイド系殺虫剤の生態系影響評価試験を実施した結果、室内レベルの毒性評価では見えなかった生態リスクおよび生態系が示す反応の複雑性が明らかになった。本講演では、これら実証研究の成果を報告し、今後の農薬の生物多様性影響評価の課題について議論したい。