| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(口頭発表) D2-06 (Oral presentation)
高標高もしくは低標高への種子散布(以下、垂直散布)は、温暖化から植物が移動して逃れるうえで非常に重要な役割を果たす。しかし、技術的な難しさや非現実的な高コストのためにこれまで評価されてこなかった。我々は場所によって異なる同位体比を利用することで、世界で初めて垂直散布の評価に成功した。さらに、本手法を種子散布の予測が難しい動物散布植物に適用した。調査は東京都の奥多摩で行い、対象はカスミザクラを用いた。動物の散布種子は、16㎞の調査ルート上(標高550-1650m)で発見した哺乳類の糞からサンプリングした。
調査から、カスミザクラ種子はツキノワグマによって80.3%、テンによって19.6%散布されており、平均の垂直散布距離はそれぞれ+307.2(±224.8SD)、+193.0(±245.1) mであることが分かった。高標高に偏った垂直散布の原因としては、春夏に山麓から山頂方向へ進むエサ植物のフェノロジーを追った哺乳類の山登りなどが考えられた。高標高に偏った垂直散布は、温暖化に伴うカスミザクラ生息適地の標高上昇に十分対応できるものであった。カスミザクラはサクラ亜属Cerasusに分類され、同亜属で類似した生態を持つヤマザクラ、オオヤマザクラ、エドヒガンなどでも同様なパターンが期待される。そのためツキノワグマは多くの野生のサクラを温暖化条件下で存続させる役割を果たしていると予想された。またサクラと同様に春夏に結実する動物散布植物は、哺乳類に散布される場合、温暖化のスピードに十分対応して垂直方向に移動できる可能性が示唆された。