| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(口頭発表) F1-02 (Oral presentation)
ブナのマスティングと葉のフェノロジーの関係を明らかにするために、ブナの開花個体と非開花個体との間で葉のフェノロジーに違いがあるかどうかを検証した。葉のフェノロジーおよび開花の観測は2014年と2015年に、長野県カヤの平ブナ林の1haプロット内に生育するブナ高木42個体を対象に行った。
ブナの開花は2014年にほとんど認められず、2015年は42本中15本(35.7%)で開花が認められた。開花個体の最小サイズはDBH25.4 cm、樹高11mであった。なお、2014年は近隣のブナ林も同様に凶作で、翌2015年は並または豊作となった。
開花前年(2014年)、開花個体と非開花個体はほぼ同時期に展葉したが、紅葉時期は両者で異なり、開花個体の方がやや遅くなっていた。開花年(2015年)の展葉時期は、前年と同様、開花個体と非開花個体でほぼ同時期となった一方、紅葉時期は開花個体の方が早かった。すなわちブナの開花個体の着葉期間は、非開花個体より開花前年はやや長く、開花年は短くなった。
ブナの花芽の原基形成は北日本で開花前年の6月下旬に始まるとされていることから、開花個体ではその前年、光合成産物を花芽形成に投資したことにより着葉期間が長くなったと考えられる。一方でブナは豊作年に枝や葉の窒素量が減少することが知られており、開花個体はその当年、光合成産物を果実成熟に投資した結果、紅葉が早く進行し着葉期間が短くなったと推察される。このようにブナのマスティングには、少なくとも前年から当年にかけて葉で生産される光合成産物の資源配分が関わっている可能性がある。以上からブナは開花した個体としない個体とで葉のフェノロジーが異なり、その兆候は前年の秋からみられることが示唆された。