| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(口頭発表) F1-10 (Oral presentation)
林床優占種のふるまいは森林の動態に大きな影響を与える。そのため、林床優占種の更新特性を明らかにすることは、森林生態系の動態を知る上でも重要である。日本のブナ林においてしばしば林床に密生するササは、長寿命一回繁殖性植物で、しかも広域にわたって同調的に開花することが知られている。ササの一斉枯死はブナ林の更新の契機となるとされているが、現実にはササの開花様式は多様である。一斉開花の際にも前触れ的に咲く集団もあれば、遅れて開花する集団も見られる(陶山ら2010)。しかも、こうした開花年のずれた開花の場合にはササ実生の発生がほとんど認められない場合が多いため、樹木の更新適地となる可能性がある。
十和田湖南岸域のブナ林では1995年に林床のチシマザサが一斉開花枯死したが、1996年に設置した1haの継続調査区には約41%の非開花集団を含んでいた。しかし、その非開花集団の21%が2003年までに開花枯死した(蒔田ら2004)。そこで、遅れて開花した区域が樹木の更新適地になっているのかを確認するために、2003年に枯死した調査区(10m x 10m)で、2003、2008、2014年に定着している稚樹(H>50cm)の調査を行った。その結果、遅れて枯死した区域では、2003年以降急速に稚樹密度が高まり、2014年には一斉枯死地に比べて約2倍(251本/100㎡)となり、樹高3mを超える稚樹もみられた。開花年のずれた区域は一斉枯死地に比べると小面積ではあるが、ササとの競争を経ずに樹木が定着生長できる可能性があり、更新の可能性が高いのではないかと思われた。