| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(口頭発表) F3-38 (Oral presentation)
群集構造の季節変化は普遍的な現象であるが,群集の季節変化の大きさやプロセスは環境勾配に沿って変化するだろう.なぜなら,一般に,種組成や個々の種の個体群動態は環境勾配に沿って変化するので,それを反映して群集動態とその駆動機構も変化すると考えられるからである.そこで本研究では,浸水時間の違いによって垂直方向に顕著な環境勾配が存在する岩礁潮間帯において,固着生物群集を対象に,(ⅰ)群集構造の季節変化の大きさ,(ⅱ)現存量が明確に季節変化を示す種群と,それらの種群の個体群動態の季節性,(ⅲ)群集の季節動態に対して相対的に重要な群集プロセス(加入,撹乱,存続および置換),について潮位に沿った変化を明らかにした.
北海道東部の25岩礁に設置された永久方形区で,2002年−2014年の春と秋に固着生物を調査し,その季節推移データから夏と冬の推移確率行列ならびに秋と春の群集構造を推定した.
(ⅰ)群集構造の季節変化の大きさは潮間帯の上部で最小,中部で最大となった.(ⅱ)現存量が季節変化を示す種群は潮位に沿って連続的に変化した.一方,それらの種群の個体群動態の季節性では,季節変化の方向(現存量が増加する季節)は種群によって決まっており潮位で逆転することはなかったが,季節変化の大きさは種群によってさまざまであった.(ⅲ)群集の季節動態に重要なプロセスは潮位で変化し,上部では加入が,中部では撹乱が,下部では存続および置換が重要であった.
岩礁潮間帯では一般に,上部ほど物理的環境の季節変動が大きくなる.本研究の結果は,群集の時間変動性は物理的環境の変動の大きさを反映するという生態学における一般的推測が必ずしも正しくはないことを示唆する.