| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) F3-39 (Oral presentation)

気仙沼・舞根湾における定例潜水調査から見た津波後の魚類群集の遷移過程

*益田玲爾(京都大・フィールド研舞鶴),畠山信(NPO森は海の恋人),横山勝英(首都大・都市環境),田中克(国際高等研)

津波による大規模な撹乱は,沿岸生態系の遷移過程を理解する上での貴重な機会をもたらす.演者らは,東日本大震災直後の2011年5月から2ヶ月に1回の潜水調査を,気仙沼市舞根湾周辺において行ってきた.本講演では,過去5年間の観察結果を報告する.

調査時は,50m×2mのトランゼクトを湾内外の4定点に各10本設定し,出現する魚類および主要な底生動物の種類・個体数と体長を記録している.

魚類の種数と個体数は1年目から2年目にかけて増加し,以後はほぼ一定である.短命な魚種であるキヌバリは津波から2年以内は個体数が非常に多かったが以後減少し,一方長寿なシロメバルやオキタナゴは3年目以降に多くなった.また,これまでに宮城県で記録のない3魚種を含む南方系の魚種が,津波から2年目と3年目にのみ記録された.大型捕食者であるアイナメは,個体数に変化は認められないものの,平均体長が津波から3年間にわたり連続して増加し,4年目に初めて繁殖個体が4カ所で確認された.なお,ミズクラゲは1年目と2年目に,マナマコは3年目以降にそれぞれ個体数が多かった.

津波による大規模撹乱の直後は,大型の捕食者が不在となったため,まず近隣の海域から短命の小型魚種が加入し,続いて南方系の魚種が侵入したと考えられる.大型魚種の体長もふまえると,魚類群集は津波から約3年で回復したと評価できる.当地では大規模なマガキ養殖が営まれ,これらが本格的に復興したのは津波から1年6ヶ月後である.クラゲ類とマガキは競合関係にあり,かつマガキの偽糞はナマコ類の餌となることを考慮すると,マガキ養殖が沿岸環境の回復に寄与した可能性もある.


日本生態学会