| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) G1-04 (Oral presentation)

ニホンザル野生群におけるinfant handlingの機能検証

*関澤麻伊沙, 沓掛展之(総研大・先導研)

一部の霊長類では、アカンボウに対して親以外の個体が接触するinfant handling(以下IH)という行動が日常的にみられる。本研究では、ニホンザル野生群におけるIHの意義について、母子・ハンドラー両者の視点から解明することを目的とする。今回は、①子育て練習、②血縁選択、③メス間の繁殖競争、④同盟相手の獲得、という4つの機能仮説の検証を行った結果を発表する。

宮城県石巻市鮎川浜の金華山島に生息するニホンザルA群において、2014年春に生まれた17頭のアカンボウのうち12頭(オス9頭、メス3頭)とその母親を対象に生後3ヵ月齢を超えるまで、1ペアにつき一回1~2時間の個体追跡観察を行った。IHが起きた場合には、ハンドラー、IHの内容、母子の反応、持続時間を記録した。既存の仮説から、ニホンザルの社会構造を考慮して予測を立て、得られたデータ(総観察時間:約489時間)を用いて、検証を行った。なお、オスのハンドラーによるIHは全IHのうち1回しか観察されていないので、分析から除外した。

IHを受ける頻度にアカンボウの性別は影響していなかった。アカンボウは経産個体よりも未経産個体からよくIHされており、未経産個体の中ではオトナよりもワカモノとコドモからよくIHされていた。また、ハンドラーと血縁関係のあるアカンボウの方がよくIHされていた。さらに、アカンボウは丁寧に扱われる頻度が高かった。アカンボウと非血縁のハンドラーは、母親よりも順位が高かった。

上記の結果から、①子育て練習仮説と②血縁選択仮説が最も支持された。①と②では、母子・ハンドラーそれぞれにとって異なる利益とコストが存在する。そのため、それぞれの仮説は排他的ではないと考えられた。


日本生態学会