| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(口頭発表) G1-06 (Oral presentation)
鳥や飛行機など、揚力を使って空を飛ぶものは皆、自らを取り巻く空気に対する相対速度を上げることに腐心する。なぜなら、翼に当たる気体速度の二乗に比例してより大きな揚力が得られるからだ。鳥は少ないエネルギーで離陸するために、風上に向かって離陸するといわれているが、それを野外で実測した例は無かった。
スコットランドのメイ島で、育雛中のヨーロッパヒメウにGPSと加速度計を取り付けて、採餌旅行中の移動経路と羽ばたきに伴う身体の震動を記録した。移動経路は1秒間隔で測定しているため、鳥が地面に対してどのくらいの速さでどの方角に向かって飛んでいたかを計算できる。一方、鳥の対気速度を算出するためには現場の風速度が必要となる。そこで、メイ島の最上部に風向風速計を設置して、5分ごとに測定した。鳥は島を中心とする半径十数キロの範囲で採餌旅行しているため、鳥が経験する風と島で測定した風はほぼ同じであろうとみなし、対地速度から風速度を引いて対気速度を計算した。
離陸する際、目的地に向かって追い風が吹いている場合、鳥は一旦反対方向の風上に向かって飛び立ち、その後Uターンして目的地に向かった。巡航飛行している鳥が選択する対気速度については、少ないエネルギーで飛び続けるための最小パワー速度と、少ないエネルギーでできるだけ長距離移動するための最大距離速度という2つの速度の存在が指摘されていた。前者の場合は、風向きによって対気速度は変わらないが、後者を採用している場合、強い向かい風に対して鳥は対気速度を上げることになる。今回得られたデータからは、ヨーロッパヒメウはできるだけ少ないエネルギーで長距離移動するために、強い向かい風の時は翼を激しく羽ばたかせて高い対気速度を達成していることが判明した。