| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(口頭発表) G1-09 (Oral presentation)
生息地間の分散は動物の適応度を左右する重大事だが、実験動物を飼うことは分散機会を奪うことでもあるので、実験には本来なら分散して存在しないはずの個体の不自然な挙動を観察する危険性がつきまとう。
ハダニとその捕食者カブリダニの攻防は両者が分散できない閉鎖系で観察されることが多い。カンザワハダニ雌成虫(ハダニ雌)は通常は葉面に張った網内に産卵するが、ケナガカブリダニ雌成虫(カブリダニ雌)が網内に侵入すると網上に退避して産卵する。閉鎖系で行われた先行研究では、網上に産まれた卵は網内の葉面に産まれた卵よりもカブリダニ雌に捕食されにくいことが示された。しかし、閉鎖系では網上の卵も最終的にカブリダニ雌に食い尽くされるため、ハダニ雌による網上産卵の適応的意義が十分に説明できなかった。一方、分散できる状況では、カブリダニ雌は子のためにハダニ卵を食べ残して分散するので、網上のハダニ卵は捕食を免れるかもしれない。
そこで演者らは、カブリダニ雌が餌パッチから歩行分散できる装置を使って、ハダニ雌の網上産卵が卵の捕食回避に役立つか、また、過去にカブリダニ雌と出会った経験がハダニ雌の産卵行動に影響するかを検証した。カブリダニ雌は葉面のハダニ卵を好んで捕食し、餌パッチ内の網上卵の割合が高いほど早く餌パッチから分散した。一方で、カブリダニ雌やその卵だけを経験したハダニ雌はカブリダニのいない環境でも網上に産卵した。以上より、ハダニ雌は過去に経験した捕食リスクに基づいて産卵場所を変えることで、子(卵)を捕食者から守ると結論した。