| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(口頭発表) G1-11 (Oral presentation)
両生類や魚類、昆虫類では、捕食者の存在によって孵化のタイミングが早まる例が知られている。これは、卵捕食者のリスクを減らす上で有効な対捕食者戦略である。昆虫以外の無脊椎動物においては、卵嚢の形態が捕食者存在下で変化することなどが知られているが、捕食者の存在によって孵化するタイミングが変わるかどうかについてはほとんど分かっていない。本研究では、岩礁潮間帯に生息する藻食性カサガイ, キクノハナガイShiphonaria sirius、およびその成体の捕食者イボニシThais clavigeraと卵の捕食者シマレイシガイダマシMorula musivaという巻貝を用い、キクノハナガイの卵の孵化日数に各捕食者が与える影響を調べた。キクノハナガイは卵塊を産卵し、その中には無数の卵がそれぞれ卵嚢に包まれた状態で存在する。まず、成体捕食者と卵捕食者の存在が孵化日数に与える影響を野外実験で調べた。その結果、卵捕食者の存在下でのみ、孵化が1日近く早まることが示された。続いて、胚が自ら孵化のタイミングを決めているのかどうかを明らかにするために、産卵前から産卵直後まで卵捕食者が存在する処理区と、産卵直後から孵化まで存在する処理区を設けて実験を行った。その結果、産卵後に卵捕食者が存在することで、孵化が早まることが示された。つまり、親が卵サイズを調節して孵化を早めるのではなく、胚が自身の被食リスクに応じて孵化を早めていると考えられた。有力な卵捕食者が存在するキクノハナガイの胚発生は、有力な卵捕食者が知られていない近縁種の発生と比べて非常に早いことからも、この現象は、卵捕食者に対する反応であることが示唆される。今後、孵化後の幼生の形態を比較することで、早く孵化することが個体のサイズや遊泳力に与える影響を評価する必要がある。