| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) G2-16 (Oral presentation)

ショウジョウバエの種特異的なフェロモン選好性を決める神経回路の進化

*石川 由希(名古屋大・院理), 上川内 あづさ(名古屋大・院理), 山元 大輔(東北大・院生命)

種特異的な配偶者選好性は生殖的隔離や種分化において重要な役割を果たしている。しかし、この種特異性が進化の過程でどのように獲得されるかは全くわかっていない。配偶者選択性は、多数の神経細胞を含む複雑な神経回路によって決められている。この複雑な神経回路のどのような変化が、種特異的な配偶者選択性の進化をもたらすのだろうか?

私たちは、キイロショウジョウバエ(キイロ)と姉妹種オナジショウジョウバエ(オナジ)のフェロモン選好性に着目した。面白いことに、これらの雄は単一の体表フェロモン成分(7,11-heptacosadiene; 7,11-HD)に対して異なる選好性を示す。キイロの求愛活性は7,11-HDによって上昇するが、オナジの求愛活性は逆に低下する。これは、キイロとオナジの進化史において、7,11-HDへの選好性を決める神経回路に何らかの変化が起こったことを示している。では、どのような変化がフェロモン選好性の進化をもたらしたのだろうか?

私たちはこれまで、2種の雑種がオナジ型のフェロモン選好性を示すことを発見した。そこでこれをモデル系として用い、7,11-HDを受容するppk25神経細胞群の数や分布、神経投射や応答性、求愛における機能をキイロと雑種で比較した。その結果、ppk25神経細胞の数や分布、神経投射、機能に関しては両者に明確な違いは見られなかった。一方、ppk25神経細胞の応答性は雑種においてキイロよりも低下していることが示唆された。しかし、この応答性の低下だけでは、7,11-HDが雑種の求愛活性を低下させることは説明できない。このことから、2種のフェロモン選好性の種特異性は、オナジにおけるppk25神経細胞群の応答性の低下と未知の抑制性神経回路の獲得という2つの異なる進化的イベントによって生じた可能性がある。


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