| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(口頭発表) G2-17 (Oral presentation)
真社会性昆虫の女王の多回交尾は、コロニー内のワーカーの遺伝的多様性を高める。一部の種では、遺伝的多様性とコロニー規模に正の相関がみられ、それは適応度を高める効果があると考えられている。他方で、女王の多回交尾は、血縁度非対称(ワーカーから見た次世代女王に対する血縁度とオスに対する血縁度の比)にもコロニー間で変異を生み、それに応じて繁殖虫の性比が適応的に変化すること(分断性比) が理論と実証で示されている。単年生の真社会性昆虫の多くは、コロニー規模を拡大した後に繁殖虫生産を行う。繁殖虫生産前後では、ワーカーの遺伝的多様性が適応度に及ぼす影響が異なる可能性があるが、これまでに検証されてはいない。
演者らは単女王制かつ女王が多回交尾するシダクロスズメバチを用いて、ワーカーを主に生産するコロニー拡大期と、オスや次世代女王の生産も終えたコロニー解散期の適応度成分とワーカーの遺伝的多様性(マイクロサテライト6遺伝子座)の関係を調べた。
コロニー拡大期ではワーカーの遺伝的多様性とワーカー育房数、羽化数及び女王の育房数に正の相関がみられ、ワーカーの遺伝的多様性増加による利益が考えられた。一方、コロニーの解散期では、ワーカーの遺伝的多様性とワーカー・オスの育房数、羽化数に相関はみられず、ワーカーの遺伝的多様性と女王の育房数、羽化数に負の相関がみられ、相対的にワーカー・オスの羽化数が増加していた。この結果は、コロニー内の血縁度非対称による性比変動理論 を支持した。本研究により、ワーカーの遺伝的多様性がコロニー構造に及ぼす影響は、繁殖虫生産前後で質的に異なることが示唆された。上記の結果に加え、女王の交尾回数と血縁度非対称の関係も踏まえて、女王多回交尾の進化背景について議論したい。