| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(口頭発表) H1-03 (Oral presentation)
適応形質の進化は、多くの場合、遺伝子発現の改変を介して生じる。これまで明らかにされた適応進化をもたらす遺伝子発現の改変の多くは、その遺伝子の近傍にあるシス制御領域の変異によるものであった。一方で、近年、モデル生物では、遺伝子発現量を形質とし、全ての遺伝子発現量(トランスクリプトーム)についてQTL(量的形質遺伝子座)解析を行う全ゲノムexpression QTL (eQTL) 解析が用いられ、遠位から数十個以上もの遺伝子の発現量を一気に変えるeQTLホットスポットが存在することが分かってきた。では、自然環境下で生じたトランスクリプトームの適応進化に、このシス制御領域をはじめとする近傍の変異と、eQTLホットスポットなどの遠位の変異はどう寄与するのだろうか?私たちはトゲウオ科魚類イトヨGasterosteus aculeatusをモデルにこの問題に取り込んだ。祖先集団である海型イトヨは海と川を回遊する一方、派生的な淡水型イトヨは川や湖など淡水域のみに生息する。これらの全脳トランスクリプトームを10%海水飼育時と100%海水曝露時で比較すると、各条件下で生態型間に大きな違いが見られた。そこで、F2交雑個体を用いて全ゲノムeQTL解析を行うと、近傍の遺伝子発現を制御するeQTLと共に、遠位の多数の遺伝子発現に影響するeQTLホットスポットが検出された。この一部は環境依存的であった。この標的遺伝子群の解析と、海型/淡水型間で高い遺伝的分化を示すゲノム領域との共局在解析から、近傍の変異はトランスクリプトームの適応進化に強く寄与する一方、遠位の変異はその制約となっていることが示唆された。