| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(口頭発表) H1-04 (Oral presentation)
ミトコンドリアDNA(以下、mtDNA)のタンパクコード遺伝子は生活史に応じて適応的に変異することが示唆されている。例えば、ネズミ目における地中へのニッチシフトはmtDNAにおける正の選択と関連することが示唆されている。地中へのニッチシフトがmtDNAによってコードされる呼吸鎖関連タンパク質に対する正の選択を伴うのであれば、ネズミ目以外の分類群でも同様の変異がみられるはずである。そこで本研究は、地中性の分類群を含むトガリネズミ目のmtDNA全タンパクコード遺伝子を対象とし、(1)トガリネズミ目においても地中適応に伴った正の選択が生じたのか、(2)正の選択が生じていたならば地中性の齧歯目と同様の変異を引き起こしているかどうか、を明らかにすることを目的とした。
まず、トガリネズミ科8種及びモグラ科7種の最尤系統樹の構築を行い、正の選択の検出を行った。その結果、トガリネズミ科の基部の枝でND6、モグラ科の基部の枝でND4及びND6、モグラ科の地中性及び半地中性のみを含む基部の枝でND4及びND6の複数のコドンで正の選択が検出された。次に、検出した正の選択がアミノ酸レベルでどのような影響を与えるかを推定したところ、アミノ酸の生化学的性質が大きく変化する変異はトガリネズミ科よりもモグラ科において多く生じていることが示された。一方で、本研究で検出した正の選択を受けているコドンや影響を受ける生化学的特性には、地中性のネズミ目に関する先行研究の結果との共通性はみられなかった。
これらの結果は、トガリネズミ目のmtDNAに特異的な正の選択が生じていることを示唆し、地中などの低酸素環境への適応に伴ってmtDNAの進化が生じるという多くの先行研究の結果を支持する。