| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) H1-07 (Oral presentation)

ミジンコの捕食者に誘導される表現型多型の制御におけるイオンチャネル共役型グルタミン酸受容体の役割

*宮川一志 (宇大・バイオ), 井口泰泉 (基生研)

同一の遺伝情報から環境に応じて異なる表現型を生み出す表現型可塑性・表現型多型は多くの生物で見られる現象であり、生物が適応度を上昇させる上で特に重要な役割を果たしている。ミジンコ Daphnia pulex は捕食者であるフサカ幼生の放出する匂い物質(カイロモン)を感受すると、後頭部にネックティースと呼ばれるトゲ状の防御形態を形成することで被食を回避する。この現象は非常に顕著な表現型多型の例であることに加え、近年注目されている生物間相互作用を介した個体発生制御の研究モデルとしても有用であるため、その発生制御機構の解明は重要な命題である。

我々はこれまで遺伝子発現解析や生理活性物質の投与実験によって、ミジンコの防御形態形成を制御する分子機構を解明すべく研究を行ってきており、現在までに複数の内分泌関連遺伝子や形態形成遺伝子の関与を明らかにしてきた。しかしながら一方で、カイロモンの有無という環境情報をどのようにして個体が受容し、それに続く内分泌関連遺伝子や形態形成遺伝子の働きが誘導されるかはいまだによくわかっていない。そこで本研究ではカイロモンの感受直後に形態形成に先立って発現の変動する遺伝子をマイクロアレイによって網羅的に探索した。その結果、中枢神経系におけるシグナル伝達で重要な働きを担う分子であるイオンチャネル共役型グルタミン酸受容体の発現が有意に上昇していることを明らかにした。さらに、この受容体のアンタゴニストがミジンコの防御形態形成を強く阻害したことより、この受容体が防御形態形成の初期に必須であることが示唆された。得られた結果をもとに発表ではこの受容体が防御形態形成において果たす機能およびその進化過程について考察したい。


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