| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) H1-11 (Oral presentation)

新しい種が次々と創出されるメカニズムの数理的研究

*巌佐 庸(九大理)・山口 諒(九大理)

種の多様性の緯度勾配などのマクロなパターンは幅広い生物群に共通している。種の絶滅については中立説などの一般理論がある。種の生成過程(種分化)についての理論的研究は、過去20年間、同所的種分化プロセスに集中してなされてきたが、同所的種分化は、対象生物の生活史や配偶行動などの詳細に強く依存し、幅広い生物群で成り立つ一般則の基盤とはなりにくい。加えて、種分化のほとんどが、地理的な隔離に伴って生じる異所的・側所的なものとの考えもある。

本講演では、複数の島に生息する集団の間でごく希に移住が生じることによって、繰り返し種が生成される側所的種分化機構についての数理研究を報告する。不和合性は多数の遺伝子座によって量的に制御されていて、個体間で異なるアレルを持つ遺伝子座数が閾値を超えると、交配が出来ないとした。それぞれほぼ単型である2集団を考え、それらの間で異なる遺伝子座の割合を遺伝距離とする。遺伝距離は、集団が独立に異なるアレルを蓄積することによる遺伝距離の増大と、希に生じる移住と交雑に伴う遺伝距離の短縮により変動する。その確率過程を、拡散近似、確率微分方程式(SDE)、直接の個体ベースモデルにより解析した。

結果:〔1〕集団数は2つしかないとしても、次々と新しい種を作り出すことが出来る事が示された。それは種分化後に片方の島からの植民により他方の島に新集団が形成され、両者の間でふたたび遺伝的分化が始まるからである。〔2〕移住率が高すぎると集団の遺伝的分化が起きにくく、移住率が小さすぎると種分化後の植民・新集団形成までの待ち時間が長くなることから、種を生成する速度を最大にするような中間的な最適移住率が存在する。近年、種分化速度を最大になる移住能力は、高すぎず低すぎず中間の値であるとする報告が、スズメ目の鳥類の分子系統解析より、また海洋生物の多様性分析からも得られており、それらと対応するものである。


日本生態学会