| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) H2-16 (Oral presentation)

河川昆虫の体色斑は隠蔽色として機能する

*田村繁明,加賀谷隆

動物の体色斑が捕食者に対する隠蔽色として機能することは,様々な種について示されている.河川では,流域の地質によって河床の色特性が決定されるが,河川昆虫の体色斑について隠蔽効果を実証した研究はほとんどない.日本の河川上中流域に普通に生息する水生昆虫のトゲマダラカゲロウ属の幼虫では,5種について体色斑に著しい種内変異を示すこと,明色な個体は河床が明色な河川で,暗色な個体は河床が暗色な河川で多いことが,演者らの研究によって明らかにされている.この対応関係は,本属幼虫の体色斑が隠蔽色として機能することを示唆する.本研究では,トゲマダラカゲロウ属幼虫の体色斑について,本属の主な魚類捕食者であるカジカに対する隠蔽機能を明らかにすることを目的とする.実験は2つの水槽を用い,それぞれ明色底質処理(背景が花崗岩の砂礫),暗色底質処理(背景が堆積岩の砂礫)として設定した.各処理とも,本属のミツトゲマダラカゲロウの明色個体(黒色と白色の縞模様)と暗色個体(一様に黒色または褐色)を1個体ずつ,カジカ1個体とともに導入し,カジカが最初に攻撃した個体を記録した.各処理とも21試行を行った結果,明色底質処理において明色個体が攻撃された試行は3,暗色個体は18,暗色底質処理において明色個体が攻撃された試行は18,暗色個体は3であった.したがって,本種の体色斑は隠蔽色として機能するといえる.河川昆虫では,体色斑に変異を示す種が少なくなく,体色斑の隠蔽機能や,河床の色特性に応じた体色斑に対する分断化選択は一般的なものである可能性がある.


日本生態学会