| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(口頭発表) H3-29 (Oral presentation)
過剰な花生産と成熟途中での果実の中絶は、様々な植物において知られている現象であり、その適応的意義については複数の仮説が提案されてきた。この研究では、過剰な花生産が散布前種子捕食者による捕食率を低下させることで繁殖効率を改善しうるという新しい仮説(捕食者希釈仮説)の理論的妥当性を、簡単な数理モデルを用いて検討する。
植物個体は一定量の資源をもち、そのうち一部を繁殖期の最初に花生産に配分し、残りを後で果実(種子)の成熟に配分すると仮定する。開花期において花に送粉者が送粉するとともに種子捕食者が無作為に産卵するが、1株の生産花数が多いほど1花あたりの平均産卵回数が低下するとする。ここで植物の3つの戦略を考える:(1) 植物は、捕食者産卵の有無に関わらず受粉したすべての花を成熟させる(中絶なし)、(2) 受粉した花のうち捕食者に産卵された花だけを選択的に中絶し残りを成熟させる(選択的中絶)、(3) 受粉した花のうち捕食者の産卵の有無に関わらず一定の割合を無作為に中絶し残りを成熟させる(無作為中絶)。戦略1と2の場合、産卵されたが中絶されない花の種子はすべて消費されるとする。
これらの戦略の繁殖効率(健全な成熟果実数/総資源量)を比較した結果、植物の資源量が少なく捕食者密度が高い状況においては、中絶しない戦略1では強い資源制限により花生産が少ないためにほぼ全部の花が捕食者により消費されて繁殖効率が小さくなるのに対し、中絶する戦略2, 3では花生産を多くして捕食率を抑制することができるため、たとえ無作為な中絶であっても、中絶なし戦略に較べて繁殖効率を大きく改善しうることが示された。