| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(口頭発表) H3-33 (Oral presentation)
里山の林分管理に関する伝統的生態学的知識を体系化するために、日本有数の豪雪地帯である長野県飯山市の農村集落に成立する里山ブナ林の維持構造を把握した。かつて薪炭や建材にブナを多用していた当地域では、ブナ稚樹を適地に移植し更新させていた。1970年頃に管理放棄された里山(約20ha)は、豪雪の影響で森林の発達が遅いためか、かつての森林利用の痕跡が現在もみられ、様々な大きさや発達段階にある小林分(パッチ)がモザイクを成している。これを相観によりブナパッチ19個、ナラ(ミズナラおよびコナラ)パッチ22個、植栽のスギパッチ17個に区分し、計58個のパッチにおいて立地環境の測定(方位、傾斜、開空率)と植生構造の把握(実生、稚樹を含めた植生および毎木調査)を行った。
現地踏査の結果、ブナパッチは南向きで比較的勾配のある斜面に多く立地していた。ブナ成木の根元曲がりの度合いはミズナラやコナラよりも小さく、このことは雪圧に対するブナの高い靱性と斜面での優れた直立性を示唆する。ナラパッチやスギパッチに点在するブナ大径木は、標識木などとして意図的に保残された可能性が高く、ブナの更新に寄与する母樹としての機能を持つと考えられる。このことを支持する結果として、2006年発芽のブナ実生の9年後(2015年)の生残率はナラパッチで高く、スギパッチでもブナパッチと大差はなかった。また、ブナ稚樹(2年生〜樹高2m未満)の2006〜2007年の1年間でのシュート伸長量は、ナラおよびスギパッチで大きいうえ、ナラパッチではコナラ・ミズナラ稚樹よりも良好であった。
こうしたブナの良好な更新状況から、当里山は全域的にいずれブナ林分へと移行すると推察された。また、樹種ごとの更新特性を活かした適地・適樹種の区割りによる林分管理が作り出したシフティングモザイクの景観構造が、里山林の持続利用を可能にしていたと考えられる。