| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) H3-35 (Oral presentation)

ツキノワグマによる選択確率が高い生息地パッチ分布の季節変動

*高畠千尋(信州大・山岳科学研究所),S.E. Nielsen(アルバータ大学・資源管理学科),泉山茂之(信州大・山岳科学研究所)

野生動物の生息地は、景観の不均一性から生じる資源分布の季節変動の影響を受けることが予測される。生息地分布の季節変動の特性が把握できれば、野生動物の頻繁な人里周辺利用が特定の季節に集中している要因の一つを解明することができると考えた。本研究では、ツキノワグマUrsus thibetanus を対象に資源選択関数モデルを用い、春季・夏季・秋季ごとにクマが選択する確率の高い生息地パッチの空間分布を予測し、その季節変動様式を評価した。

2008-2012年の間のGPS首輪装着個体の内、連続して春・夏・秋のデータが得られたメス16頭とオス15頭の測位データからWebster法で季節区分を行った。個体ごとの行動圏から無作為抽出した地点を利用可能な資源とした「利用−利用可能」フレームにもとづく単変量ロジスティック回帰によって、変数ごとにモデル適合度を評価し、説明変数を選択した。そこから、季節×雌雄の6つの資源選択関数(RSF)モデルを構築し、定量頻度法によってRSF値を5つに指標化した生息地分布予測マップを作成した。最も高い指標の生息地パッチの平均面積、またパッチの重心点を求め、そこから人間の高度利用域までの距離を計測した。

本研究の結果、クマによる選択確率の高い生息地パッチの分布に著しい季節変動が存在し、中でも夏季に、人里近い場所に偏って集中分布していたことが判明した。これは、人里でのクマの目撃件数が夏季にピークとなることが、クマによる生息地選択によって起こっていることを裏付ける結果となった。人里周辺でのクマの高い死亡率を考慮すると、夏は生息地ボトルネックとなっている可能性が高く、今後に向けクマの個体群保全のためにも、人里周辺における夏の資源分布の精査が必要であることが示された。


日本生態学会