| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) I2-16 (Oral presentation)

揖斐川における河道掘削後のイシガイ類生息環境の形成と変遷

*永山滋也(土研・自然共生C),原田守啓(岐阜大院・流域研C),佐川志朗(兵庫県大院・地域資源),萱場祐一(土研・河川生態)

堤防間に挟まれた河道内氾濫原は、生物多様性の確保を考える上で重要な河川環境要素であるが、1980年代以降、本川流路からの比高の拡大や樹林化が進み、環境の劣化が懸念されている。一方、河積の拡大を目的として実施される河道掘削(高水敷掘削)は、相対的に低くて冠水し易い地盤面を造成する行為であり、氾濫原環境の創出と親和的である。本研究は、氾濫原生態系の指標性が高いとされるイシガイ科二枚貝(イシガイ類)に着目し、高水敷掘削後に形成された氾濫原水域(ワンドやたまり)の、生息環境としての質と量の時間変化から、効果の高い掘削高さを検討した。

平成12~19年にかけて様々な高さで高水敷掘削が行われた揖斐川中流部(河口から31~39km)において、掘削高さと施工年が異なる11工区を調査対象とした。調査工区の掘削高さは、水位を目安とした5種類からなり(渇-低水位、平水位、平-豊水位、豊水位、>豊水位)、調査時点での経過年数は4~11年であった。各工区では3~23個の水域でイシガイ類の採捕を行った。そして、イシガイ類生息量と掘削高さおよび掘削後の経過年数との関係を検討した。次に、空中写真から、掘削工区ごとに氾濫原水域の数と面積の時系列変化を把握した。

イシガイ類の生息量と生息水域の割合は、低い掘削工区(渇-低水位、平水位)ほど高かったが、経過年数との明瞭な関係はなかった。また、生息水域割合が多い工区では生息密度も高かった。掘削後6~8年目までは、水域量は掘削高さによって異なる変化を示したが、10年以上経過した時点では、水域の数に大きな違いはない一方、水域面積は渇~平水位で大きかった。以上より、本調査サイトでは、「渇~平水位」の掘削高さがイシガイ類にとって効果的であると結論された。


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