| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(口頭発表) I2-20 (Oral presentation)
ニホンジカの食害による生態系の変化は全国で重要な課題となり,これまで影響が少なかった東北地方や中部地方北部,中国・四国地方などでも影響が拡大している.初期における特定の希少植物種の消失から,その後に続く森林の偏向や消失,水循環の変化や土壌浸食の増加まで,多様で広範な生態系の変化が起きる.
このような生態系に対する影響のレベルは広域で継続的にモニタリングしてゆく必用がある.また市街地が森林に接する地域では,森林内の高い被食圧と市街地での低い被食圧が隣接することもあるなどローカルな傾度も存在し,市民参加による調査も啓蒙活動と測定データの活用の両面において有意義であろう.
ニホンジカの分布が到達した初期には高嗜好性の植物が被食を受けるが,その植物種が消失したあとでは,相対的に不嗜好性の植物が順に被食を受ける現象がある.また一方で地域によっては初期に高嗜好性植物として摂食されるが,他地域では食害が進んでもあまり摂食されないような,嗜好性の地域差の存在も指摘されてきた.
この研究では北海道と中部地方,九州地方の屋久島における被食状況の調査結果をもとに全国の植物の嗜好性をひとつの軸に定量化した.複数の地域に出現する共通種の嗜好性を比較すると,多少の地域差がみとめられる植物種もあるが,全体としては全国で一貫した嗜好性が見られた.このような嗜好性尺度を用いると,発見・同定しやすい指標植物種を選定し,調査地点において被食を受けている植物種と,被食されていない植物種を数種ずつ記録することで,少ない労力による市民参加などでの広域の被食圧の測定が可能になる.
ここでは北海道佐呂間町と山梨県都留市,鹿児島県屋久島の森林と農地,市街地などが混在する景観で被食圧地図を作成した例を紹介する.