| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) I3-25 (Oral presentation)

ゲーム的状況における海洋保護区の導入

高科直(琉球大・熱生研)

生態系保全や水産資源管理の手法として,効果的な海洋保護区を導入することが世界的に重要な課題となっている。海洋保護区の効果を明らかにしようとする試みにおいて,生態系それ自身のダイナミクスを考慮する事に加え,人の意思決定を明示的に考える事は重要である。例えば管理者らによる資源の利用競争を通じて引き起される「共有地の悲劇」を例にとれば,人為的要因が生態系ダイナミクスに対する最も甚大な影響となりうる事が理解できるだろう。しかし,人の意思決定,特に管理者間における水産資源利用競争が存在するという「ゲーム的状況」下において海洋保護区の効果を考察した研究は現状では殆ど無きに等しいようである。このような状況は,管理者の単位が個人や漁業協同組合などのコミュニュティーのレベル,さらには地方行政から国レベルに至るような場合にまで,実に幅広いスケールで起こりうる。本講演では,この「ゲーム的状況」下において,水産資源管理の一環として導入された海洋保護区の効果がどのように変更されるかを議論したい。そのため,水産資源管理研究においてしばしば適用される,一種の個体群ダイナミクスを記述する数理モデルであるSchaeferモデルを,海洋保護区の面積を考慮する目的のため空間明示的に拡張し,さらに複数の管理者らが個々の経済的便益の最適化を試みているといった状況を考察した。得られた結果は,管理者間の競争の度合いは海洋保護区のサイズ,また管理対象種の生態学的特性である移動率とともに大きく変化する事を示した。特に管理者間の競争は海洋保護区の面積が中庸な場合もっとも大きく,海洋保護区の効果を大きく減少させ,人の意思決定を明示的に考慮することの重要性を示唆する。


日本生態学会