| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) I3-27 (Oral presentation)

豊平川のサケの放流数を決める管理方式の検討~サケを減ら さずに野性味を増すために~

*森田健太郎(水研セ・北水研), 有賀望(札幌市公園緑化協会)

札幌市を流れる豊平川では、毎年20万尾のサケの稚魚が放流されている。これは、1979年に始まった「カムバックサーモン運動」を期に、サケを豊平川に呼び戻そうという活動の一環として行われている。2004~2007年の標識放流調査によって、豊平川に遡上するサケの約7割が自然産卵に由来する野生魚であることが判明した。近年、人工ふ化放流が生物多様性に負の影響を及ぼすことが懸念されるようになり、札幌市が策定した生物多様性さっぽろビジョンにおいても「豊平川でも将来的には自然産卵によってサケの回帰が維持されることが理想」とされている。しかし、現在の放流を止めた場合、自然産卵によってサケの回帰が維持されるかどうかは分からない。そこで、放流数を削減した場合の応答を見ながら、サケを減らさずに自然産卵に移行する管理方式を検討した。豊平川のサケの個体数変動を再現できる仮想現実モデルを作成し、①20万尾放流、②放流を止める、③フィードバック管理(遡上数が目標値を達成すれば放流数を減らす)を行った場合のシミュレーションをおこなった。その結果、放流数をゼロにしても目標となる遡上数が達成されることが予測された。しかし、仮想現実モデルに用いた多くのパラメータの推定精度は低く、不確実性は非常に高かった。また、地球温暖化等の環境変化によってもこれらのパラメータが変化する可能性も考えられた。そこで、自然産卵の生存率が現在推定されている値よりも50%低かった場合も想定し再計算をおこなった結果、放流数をゼロにした場合は絶滅リスクが高いが、フィードバック管理を行った場合は目標が達成された。この結果に基づき、2015年から放流数を削減することが決まった。今後、遡上数のモニタリング調査を継続し、豊平川にサケを遡上させるために必要な放流のあり方が明らかになっていくことが期待される。


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