| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) I3-32 (Oral presentation)

成長に伴うヨワカイメンのろ過機能の変化

*保坂美沙子(横市大・国際総合),椿玲未(JAMSTEC),出口茂(JAMSTEC)

海綿動物(カイメン)は体内に張り巡らされた水路(水溝系)を通じて水中の粒状有機物を濾過摂食する。水路には襟細胞とよばれる鞭毛を持った細胞が存在し、襟細胞は数十個が球状に集合し襟細胞室を形成している。カイメンはこの襟細胞の鞭毛により水流を起こすとともに、鞭毛を囲むように並んだ微絨毛で微粒子をとらえる。カイメンの水路形成過程は非常に特殊で、まず体内に無数の小胞が形成され、近隣の小胞同士が融合して次第に大きな空所を形成し、最後に空所の末端に水の出口に当たる大孔が形成されることにより、入り口から出口まで水路が貫通する。襟細胞室は大孔の形成に先立って小胞の壁に並ぶように形成される。

本研究では水溝系の発達に従って濾過機能がどのように変化するかを調べることを目的として、ヨワカイメンEunapius fragilisの無性生殖芽である芽球を用いて実験を行った。芽球には未分化の貯蔵細胞がつまり、春になり水温が上昇すると多分化能をもつ細胞が一斉に放出され分化し、幼体となる。蛍光粒子を用いて襟細胞室を可視化・計数した結果、ヨワカイメンは大孔を形成するよりも前にすでに多数の襟細胞室を形成し、その数と密度は大孔が形成された個体と有意な差はなかった。さらに大孔が形成された個体においても、襟細胞室密度・サイズは発達段階を通じて有意な変化はないことも明らかとなった。襟細胞室密度とサイズが一定に保たれる背景には、カイメンが自己組織化によって水路を作り上げているということがあるのかもしれない。また、ヨワカイメンは大孔形成前でも水路全体の収縮と弛緩の繰り返しにより周囲の水を体内に取り込み、濾過摂食を行うことも示された。収縮と弛緩によって起こす水の流れは鞭毛運動によって生み出される流れよりはるかに小さいが、水路が未完成の状態でも餌をとることができるということはカイメンの成長にとって有利だろう。


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