| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(口頭発表) I3-33 (Oral presentation)
同一個体群から移動する個体としない個体の両者が出現する現象はpartial migrationとしてしられ、様々な分類群に見られる一般的な行動である。なぜ異なる移動特性が同一個体群中に維持されるのかを解明することはmigrationの進化の理解に繋がる。魚類ではサケ科魚類が最も研究されており、いくつかの種では回遊(降海)する個体の割合が高緯度ほど高くなる“緯度クライン”が存在する。これは高緯度ほど海洋の一次生産量が増加し、回遊によるベネフィットが大きくなるためだといわれてきた(餌量仮説)。しかしながら、降海性の緯度クラインはサケ科魚類以外では全く実証されていない。そこで本研究では、日本全国に分布しpartial migrationを示すウグイにおいて降海性の緯度クラインを検証した。
本研究では九州から北海道にかけて16個体群565個体を収集し、耳石のSr/Ca解析及び海産指標寄生虫を用いて残留型と回遊型を決定した。また、マイクロサテライトDNA分析を用いて、低緯度と高緯度の個体群で遺伝的変異に差があるかを調べた。更に降海型と残留型の性比、成長率、生殖腺体指数(GSI)を比較することで降海型の出現要因についても検討した。
解析の結果ウグイにおいては低緯度ほど降海率が高くなる “逆緯度クライン”が存在することが明らかとなった。また降海型と残留型の性比、成長率、GSIに有意な差はなかった。
低緯度地域では高緯度地域に比べ河川に生息する魚種が多いことがしられている。このため、低緯度では種間競争がウグイの回遊を促進した可能性がある。これは成長率、GSI解析から示唆される、ウグイの回遊目的が成長や繁殖のためではないという結果とも一致する。これまで魚類の回遊の進化においては餌量が主要な要因だと考えられてきたが、今後更に様々な分類群を調べて再検討する必要がある。