| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(口頭発表) J1-11 (Oral presentation)
北バライは,カンボジアのアンコール地域に1200年頃に建設された貯水池(湛水面積約330ha)であり,漏水後,数百年に渡り放置され,発達した二次林が形成された。しかし,近年の都市計画により,森林が成立したまま2008年に再湛水され,枯死木等に由来する溶存有機物が水中に堆積し,水質汚濁の発生源になることが危惧されている。本研究では,アンコール地域における熱帯淡水生態系の保全を目指し,北バライにみられる水生植生の分布パターンを立地や水質などの環境要因と関連付けて明らかにした。
野外調査は北バライの西側(約170ha)を対象とし,2014年9月の高水位期に69の方形区(1m×1m)を無作為に設置して植生調査を行った。北バライの水深は約1.0m(2014年9月時点)である。各方形区では,水深を実測し,多項目水質計を用いて水温,EC,DO,クロロフィル濃度を測定するとともに,ポータブルpH計によりpHを測定した。TWINSPAN分析により植分を類型化し,CCA分析により方形区を序列化した。
その結果,18種の水生植物が出現し,北バライに成立する水生植生は8つの植分に類型化された。どの植分においても沈水植物が概ね優占となった。CCA分析により,各植分の分布には水門からの距離と水深,クロロフィル濃度,種密度,水面および水底の植被率が寄与することが示唆された。クロロフィル濃度は,優占種の一種であるオオトリゲモの植被率が高い植分で顕著に濃くなり,その位置は藪などの水流が滞留する立地に集中することが示された。また,浮葉植物のヒメシロアサザが優占となる植分では,水面の植被率と種密度が同調して高くなる傾向が認められた。