| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(口頭発表) J2-16 (Oral presentation)
東南アジア沿岸域は生産性や生物多様性が高く,生物的・経済的に重要な地域として注目されている.陸と海の移行帯として複雑な生態系ゆえに環境変化に対する影響を受けやすく,回復も遅い.そのため,近年の経済発展に伴う人的攪乱と気候変動による自然災害の増加が,沿岸域生態系に大きく影響を与えている.沿岸域生態系の保全にむけて,科学的なデータの蓄積が必要とされている.
本研究は1988年以降に90%以上のマングローブ林が養殖池に転換したフィリピン・パナイ島のバタン湾沿岸域(約5000ha)にて行った.調査域には養殖池,放棄養殖池,天然マングローブ林,マングローブ植林地がモザイク状に散在している.湾内に生息する動植物と底質を採集・分析し,窒素・炭素安定同位体比の空間的な変化に伴う食物鋼構造を比較することを目的とした.分析対象である植物(葉・根),植物プランクトン,底生微細藻類,底生生物,底質にはGPS情報が付加されており,衛星画像とArcGISを用いて空間情報解析を行った.
分析の結果,湾内の底質中有機物のδ13C値は陸域から海域にかけて約-29‰から約-25‰の推移が確認でき,淡水と海水の混合を指標する塩分濃度と正の相関を示すため陸生有機物が影響を及ぼしている程度や範囲が理解できた.さらに,底生生物もマングローブ林内から前干潟にかけて,種構成やδ13C値に推移がみられた.また,放棄養殖池内や過密植林地(Rhizophora mucronata)の底生生物のδ15N値は,他のサイトと比較するとレンジが狭く,種や栄養段階に違いがあることが分かった.バタン湾において過密植林や放棄養殖池などの人的影響が大きい生態系も,特定種においては重要なハビタットとしての貢献が示唆できた.