| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(口頭発表) J3-27 (Oral presentation)
生物種間に見られる互恵的な関係では、ハチドリの嘴の長さとそれが利用する花の深さやミュラー型擬態のように、2種の形質が一致していることで初めて両者に利益をもたらすものがある。そのような形質の一致に基づく互恵的な関係は、もともと相互作用を持っていなかったそれぞれの祖先系から、緩やかな互恵関係を経て進化してきたと考えられる。しかしながら、それぞれの種が持つ形質は、互恵的な関係とは独立に何からの自然淘汰を受けているはずであり、互恵関係の進化は自明ではない。そこで、異なる方向性淘汰にさらされている2種の形質が相互に利益をもたらし得る状況で、互恵的な関係が成立するための条件を理論的に解析した。
1次元で数値化できる形質を持つ2種の生物を考える。それぞれの種の形質には独立に方向性淘汰が作用しているが、両種の個体が相互作用を持った際に、それらが同一の形質値を持つ場合にのみ両者に一定の利益がもたらされると仮定する。また、それらの形質には発生的不安定性が存在し、遺伝子型が同一でも個体の発生過程で表現型にばらつきが生じるとする。2種の生物の形質の集団平均値と、そこに作用する発生的不安定性の程度を量的形質と仮定し、2種それぞれにおけるそれら2形質の進化過程を解析した。なお、発生的不安定性を小さくするためには発生過程の精密なコントロールが必要であり、その実現にはコストがかかるとした。
数理モデルの解析により、互恵的な関係が持続するためには、(1) 互恵関係の利益が大きいこと、(2) 発生的不安定性を減少させるコストが互恵関係の利益に対して小さいこと、(3) 2種に作用する方向性淘汰の差が小さいこと、などが必要である。それらの条件を徐々に変えていった場合、閾値を超えると突然に互恵的な関係が崩壊することが示された。また、初期状態として発生的不安定性がある程度小さな値をとっている必要があることも明らかとなった。