| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) J3-29 (Oral presentation)

絶滅リスク評価の信頼性:信頼区間は(0,1)で意味がないという誤解

箱山 洋(水研センター/東京海洋大)

IUCNや環境省のレッドリストの評価において、絶滅リスク評価の重要性は依然として高い。一方で、理論的な帰結として、現実のデータ量では絶滅確率の信頼区間は(0,1)となり、絶滅リスク評価は無意味ではないか?という主張をS. P. Ellnerと共著者らが行い、論争となってきた。この講演では、最も基本的な絶滅モデルの一つであるドリフト・ウィーナー過程について、絶滅確率の精度の高い信頼区間を解析的に与えることで、これまでの(0,1)信頼区間の議論を再検討する。ドリフト・ウィーナー過程の絶滅確率は、増殖率・環境分散・初期個体数の母数から計算できる。時系列データから絶滅確率の信頼区間を推定するには、デルタ法・ブートストラップ法・Ellnerらの近似法があったが、十分に正確ではなかった。そこで、増殖率・環境分散に適切な変数変換を行い新たな2つの母数(W, Z)を考えることで信頼区間を構築する方法を開発した。WとZの推定量は、どちらも非心t分布に従い、互いに相関がある。増殖率が正で十分大きい場合、絶滅確率はWだけに依存することが解析的に示され、Wの推定量の漸近的にexactな信頼区間が求まることから、絶滅確率の信頼区間を求めることができる。また、増殖率が負の場合、WとZの推定量には正の相関があることが示され、信頼領域を囲むWとZの信頼区間の交わる2点を対角に取ることで、精度の高い信頼区間が得られる。この信頼区間は、これまでの推定法による信頼区間よりも正確であった。新たな推定法をもとに、時系列データの長さと信頼区間の関係を明らかにした。結論として、絶滅確率の信頼区間の幅は時系列データの量だけでなく、effect size(絶滅確率)にも依存する。絶滅の可能性が十分に低い場合(高い場合)、予測のウィンドウよりも短い現実的なデータ量でも十分に信頼性の高い推定が可能である。


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