| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(口頭発表) J3-30 (Oral presentation)
日本の多くの場所で、ニホンジカの増加と、下層植生の衰退が報告されている。屋久島でも、シカの密度が高い西部低地林では、シカが多い場所で、シカによる嗜好性の高い樹種の稚樹が減少する一方で、嗜好性が低い樹種は増加することが知られている。本研究は、シカの密度が低く下層植生の残っている場所で、シカの密度と下層植生の関係を明らかにすることを目的とした。調査地は屋久島西部、瀬切川・大川の上流域の、標高800-1300mの地域である。調査地内に50m×4mの調査区を30個設置し、それぞれを10mごとに区切って、その区画内の地面に落ちている糞塊の数、地面から1.5mの高さよりも下にある樹木・草本の被度と種名を記録した。10m単位の被度の合計、総植物種数、出現回数が10回以上の上位18種のそれぞれの被度を応答変数、標高とシカ糞塊数を固定要因、ランダム要因を区画名(50m×4mの区画)とする一般化線形混合モデルにより分析した。シカの数が多いほど、全植物樹種をあわせた被度が高くなる傾向が見られ、植物種ごとの解析では、シカが多いとハイノキの被度が高くなり、センリョウの被度が低くなる傾向が見られた。また、植生ごとに分けて解析すると、同様の傾向が一次林内でのみ見られた。ただし、ハイノキに加えてヒサカキもシカが多いと増加する傾向があり、センリョウの減少はなかった。二次林と植林地ではそのような傾向はなかった。標高の影響はいずれの場合もなかった。ハイノキやヒサカキは、この森林内の下層植生の優占種であり、ヒサカキについてはシカが食べるという証拠がある。「シカの採食で競合相手が減り、不嗜好種が増加する」という、屋久島低地で見られているようなメカニズムは、はたらいていない。おそらくは、シカが植生を改変したのではなく、シカの密度がまだ低く、影響が見られないような状態で、シカが下層植生の多い場所を選択していたと考えるのが妥当だろう。