| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(口頭発表) J3-31 (Oral presentation)
肉食性の外来種は島嶼生態系において深刻な問題である。奄美大島では1979年にハブの駆除のためにフイリマングースが放逐され、その後個体数を増やし分布域を拡大していった。それに伴い、1970年代前半には島のほぼ全域に生息していたアマミノクロウサギは島南西部の比較的大きな個体群と島北東部の小さな個体群に縮小・分断された。本研究では、マングースの分布拡大によるアマミノクロウサギ個体群の遺伝構造への影響を明らかにすることを目的として、ミトコンドリアDNA調節領域(312bp)とマイクロサテライトDNA領域8遺伝子座を用いて遺伝解析を行った。DNAサンプルとして2003年から2005年にかけてアマミノクロウサギの新鮮な糞を分布域のほぼ全域から採取した。ミトコンドリアDNA・マイクロサテライトDNA共に北東部の個体群は南西部の比較的大きな個体群よりも遺伝的多様性が低く、また、両個体群間では高いFstの値を示した(p < 0.05)。STRUCTUREを用いたクラスタリングにより島全域で3つの祖先集団が示唆されたが、特定のクラスターに高い割合で由来している個体は見られなかった。個体間の遺伝的距離と地理的距離の関係では、偏マンテルテストの結果、個体群の分断化の影響は見られず、島全域および南西部の比較的大きな個体群内で距離による隔離の効果が見られた。こうした結果から、両個体群間で見られた高いFstの値はマングースによる分断化の影響ではなく、それ以前から内在していた距離による隔離の効果によるものと考えられた。一方、遺伝的多様性は北東部の小さな個体群で低いことが明らかになっており、これはマングースによる捕食圧で個体数が著しく減少した影響だと考えられた。