| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) J3-32 (Oral presentation)

紀ノ川水系におけるナガレトビケラ属RhyacophilaおよびツメナガナガレトビケラApsilochorema sutshanum幼虫の流程分布と生息環境

平 祥和*大阪府立大学 高等教育推進部門

紀ノ川水系におけるナガレトビケラ属RhyacophilaおよびツメナガナガレトビケラApsilochorema sutshanum幼虫の流程分布と生息環境

平 祥和 (大阪府大・高等教育)

環境指標生物に指定されるナガレトビケラ幼虫は水質階級Iに属すが、水質以外の水温や河川底質などの環境要因によって流程分布域が制限されると考えられる。そこで、紀ノ川水系に33地点を設け、ナガレトビケラ類の流程分布を調査するとともに、水質、水温、河川底質など、分布に影響すると思われる環境要因についても調査した。

ナガレトビケラ類の流程分布と環境要因について正準相関分析を行ったが、これら幼虫の分布パターンと環境要因間で明確な関連を見出せなかった。そこで、環境要因のうち、直接幼虫の生息場所選択に関わると思われる底質と流速について検討した。底質について、多くの種は石表面を生息場所にするが、ムナグロナガレトビケラ種群幼虫は、砂・砂利の間隙に生息することが知られる。流速について、RCナガレトビケラは、他種が生息しない流速140~200cm/sの川底に多く生息した。各種の選好性に合った底質、流速の存在が幼虫分布の絶対条件になるが、これら条件が揃った地点でも、種によっては生息しない地点が存在した。その様な地点については、水質や水温が幼虫の分布域の決定要因になると思われるが、水質について紀ノ川水系は良好と思われ、本研究では検討できなかった。水温は、各種幼虫の発育0点や水温と成長の関係を明確にするなどの課題が残された。

このように、正準相関分析などの多変量解析では、河川ベントスの流程分布の制限要因を明確にできないケースも存在する。本研究の例は、対象の生態的特性を明らかにしなければ答えが得られないことを示唆している。


日本生態学会