| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-014 (Poster presentation)

北岳(南アルプス)において絶滅危惧コケ植物はどこに生育しているか?分布と生育状況に関する知見

*佐藤匠,山口富美夫(広大院・理)

コケ植物は亜高山帯から高山帯を特徴づける重要な植物であるが,フロラ研究及び絶滅危惧種に関する定量的な研究の不足が指摘されている.南アルプス北岳におけるコケ植物に関する研究は1970年に甲斐駒ケ岳・仙丈ケ岳・北岳で行われて以降,希少種の報告にとどまっている.本地域からは多くの絶滅危惧種が報告されているが,いくつかの種の生育状況や詳細な分布域に関する情報は無く早急に調査すべきだと考えられる.加えて,近年北岳から日本新産として報告されたMannia pilosa及びEncalypta trachymitraに関する情報は乏しく,特にその生態については不明な点が多い.本研究では国内高山帯の南限域である南アルプス北岳において,絶滅危惧種及び北岳から日本新産種として報告されたコケ植物種の生育状況を把握し,本地域における分布及び生態を明らかにすることを目的とした.調査の結果,17種の絶滅危惧種および日本新産種であるM. pilosaE. trachymitraの生育を確認した.絶滅危惧種の生育基物は土上(67%),岩上(29%),腐食土上(3%)の順に多く,植生は風衝草原(45%),岩場(38%),ハイマツ林(9%),針葉樹林(6%)の順であった.また,多くの絶滅危惧種は高標高の石灰岩の露頭がみられる風衝草原で同所的に生育していることが明らかになった.さらに国内における生育地が数地点のみでしか知られていないEncalypta alpinaDesmatodon latifoliusは風衝草原とその周辺でのみ確認されたことから,北岳では風衝草原とその周辺地域が絶滅危惧コケ植物の保全上重要な場所であることが示唆された.


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