| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-018 (Poster presentation)
春日山原始林において樹木群集構造の変化及び地形と関連した構成種の分布・成長特性を明らかにするため、2013年から2015年にかけて7.7 haの調査区を設定し毎木調査を行った。
胸高直径10 cm以上の樹木は55種4922本出現し、幹密度は639本/ha、胸高断面積(以下BA)は42.5 m²/haであった。主な優占種はスギ、アカシデ、コジイ、ウラジロガシであった。本調査地のギャップ面積は1601 m²/haで、ギャップ率は16%である。
今回BAの大きかった主要構成種12種について25年前に同所で行われた胸高直径20 cm以上の林冠木調査データと比較した。幹数・BAともにカシ類の増加が顕著であった。カシ類は直径階分布においても逆J字型を示し、連続的な更新をしていることがうかがえる。これは、綾や龍良山などの他地域の照葉樹林とは異なる点である。
全種を込みにした死亡率と新規加入率はそれぞれ1.15%/年、1.53%/年で生活形別では落葉広葉樹と常緑針葉樹は加入率より死亡率の方が高かった。常緑広葉樹では加入率が死亡率を大きく上回った。これらのことから、本調査地では照葉樹林の遷移が進んだと言える。
樹種ごとの生残と成長におよぼす地形とサイズの影響を一般化線形モデルによるモデル選択により解析した。樹木の生残には地形が影響を与えている種と個体の直径が影響している種があった。成長速度には樹種間に大きな違いがあり、主要種の中ではコジイが最も大きかった。種内では水分、栄養、光といった資源の豊富な場所での成長が盛んであると考えられた。
なお、成木を対象とした本調査では、照葉樹林としての危機的な状況は認められなかった。しかし、外来種の分布拡大やシカによる更新阻害、ナラ枯れといった脅威にさらされている現在、保全を考えるうえでは実生や稚樹といった次世代を担う生活ステージの動向に注視する必要がある。